棒の力学―連続体の力学序論―

棒の釣り合い

次の図のような棒を考えます。
実は、連続体の力学は以下の議論を3次元に拡張したものとなっています。

bar_config.eps

棒は天井と床からケーブルで引っ張られて安定しているものとします。
棒の密度分布を一様とすると、至る所一様で下向きの重力を受けています。
従って、上部のケーブルの張力の方が下部のケーブルよりも大きく、その差は、棒に作用する力の総和、つまり総質量と等しい、ということになります。

さて、棒のそれぞれの場所の引張力を$n(x)$で表します。

bar_tension.eps

ここで、$x$は棒の各点の位置を表すために振られた、連続的な座標です。
正確には、棒の一部を取り出して、そこに作用する力を$n(x)$(外向きを正)と定義します。
さらに、棒の両端を$A,B$とし、両端に作用する外力を、それぞれ外向きに$F_A,F_B$とします。$n(x)$の定義より両端で、

(1)
\begin{align} n(A)=F_A,\ n(B)=F_B \end{align}

が満たされる必要があります。これは、我々は釣り合い式と呼んでしまいますが、「$n(x)$$A,B$において外力とよく適合していなければならない」という意味において、本質的に適合条件です。
次に、棒の微小な部分を取り出して考察しましょう。

bar_balance.eps

力の釣り合いは

(2)
\begin{equation} n(x+dx)-n(x)+f(x)dx=0 \end{equation}

と書けます。ここで、$f(x)$はバネに軸方向に作用する連続分布外力で、単位長さ辺りの力です。
結局

(3)
\begin{align} dn\mid_x+f(x)dx=0 \end{align}

ですから

(4)
\begin{align} \frac{dn}{dx}\mid_x+f(x)=0 \end{align}

これは、棒上の各点における力の釣り合い式です。

以上をまとめると、以下の図のようになります

bar_graph.eps

図では、$n(x)=-kx+\alpha$の形で書けますから、このとき、分布荷重は至る所一様で$k$となります。

仮想仕事の原理

以上より

(5)
\begin{equation} n(A)=F_A \end{equation}
(6)
\begin{equation} n(B)=F_B \end{equation}
(7)
\begin{align} \frac{dn}{dx}\mid_x+f(x)=0\ (A\leq x\leq B) \end{align}

の連立方程式が、バネ全体の釣り合い方程式となります。これらを、一行に統合してみます。
まず、勝手な関数$\delta u(x)$を用意しましょう。そしてこの関数を仮想変位と呼ぶことにします。
すると

(8)
\begin{align} -n(A)\delta u(A)+n(B)\delta u(B)=\int_A^B{\frac{dn}{dx}\delta u dx}+\int_A^B{f\delta u dx}-F_A\delta u(A)+F_B\delta u(B) \end{align}

左辺第一項と右辺第三項がマイナスなのは、仮想仕事は力と仮想変位が同じ向きの時正となるように符号を決めるためです。両端の外力は外向きを正としました。一方仮想変位はどちらでも右向きが正となっています。だから、左辺第二項と右辺第二項は負号が付与されます。
積分で登場する記号を用いると

(9)
\begin{align} \left[n\delta u\right]_A^B=\int_A^B{\frac{dn}{dx}\delta u dx}+\int_A^B{f\delta u dx}+\left[F\delta u\right]_A^B \end{align}

ここで部分積分を用います。部分積分は

(10)
\begin{align} \int_A^B{\frac{df}{dx}gdx}=-\int_A^B{f\frac{dg}{dx}}+\left[fg\right]_A^B \end{align}

として与えられます。これを右辺第一項に適用して、

(11)
\begin{align} \left[n\delta u\right]_A^B=-\int_A^B{n\frac{d\delta u}{dx}dx}+\left[n\delta u\right]_A^B+\int_A^B{f\delta u dx}+\left[F\delta u\right]_A^B \end{align}

左辺第一項と右辺第二項が消えますから、右辺第一項を左辺に移項して

(12)
\begin{align} \int_A^B{n\frac{d\delta u}{dx}dx}=\int_A^B{f\delta u dx}+\left[F\delta u\right]_A^B \end{align}

さて、変分法の基本的な操作を用いると

(13)
\begin{align} \frac{d\delta u}{dx}=\delta\frac{du}{dx} \end{align}

です。$\frac{du}{dx}$は棒の歪(伸び率)を表していますから

(14)
\begin{align} \frac{du}{dx}=e \end{align}

とおいて、

(15)
\begin{align} \delta e(=\delta\frac{du}{dx})\equiv\frac{d\delta u}{dx} \end{align}

と定義します。これは定義というよりも、命名規則です。すると

(16)
\begin{align} \int_A^B{n\delta edx}=\int_A^B{f\delta u dx}+\left[F\delta u\right]_A^B \end{align}

このようにして、棒における仮想仕事の原理が得られました。
同時に、$n(x)$は、歪の微小変化を生じさせるような一般力であると解釈することができます。